基礎研究
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航空機内での放射線測定 @オーストラリア研修 |
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トロン温泉報告記 (放射線について) | |||
T はじめに
オーストラリア、それは広大な大陸の上にある自然豊かな国である。私たちは平成23年10月23日から28日まで、このオーストラリアで海外研修を行った。行先はリゾートのようなケアンズと、オーストラリア最大の都市シドニーである。私は行った研修の中でも、大堡礁と訳されるグレートバリアリーフでの研修が非常に印象に残っていて、その美しさに心が惹かれた。
ところで私は本校グローバルサイエンス部に所属している。グローバルサイエンス部、通称GS部では平成22年度以来、放射線に関する研究を行ってきた。「放射線測定で巨椋池干拓地の地下構造を探る」や「蓋然性をもつ自然放射線量の特性」といった内容の発表を行い、高い評価を得ることができた。その中で今回の研究内容は、ある部員と考え出した「航空機内での放射線測定」についてまとめる。
U 放射線とは
平成23年3月11日、日本人としては一生忘れることのできない、東日本大震災が発生し、それに伴った原子力発電所の事故により*放射能や放射線といった言葉が大きく広がった。このような言葉を聞くと、私たちは放射線とは絶対的に恐ろしいものであると思いきってしまうかもしれないが、ここには大きな間違いが存在するのである。
では、放射線とはいったいどのようものなのだろうか。
放射線には種類があり、He原子核であるα線、電子線であるβ線、電磁波の一種であるγ線などに分類される。放射線は放射性物質が崩壊(原子核が不安定な状態から別の原子核または安定な状態の原子核に変わっていく現象)するときに放出されるもので、放射性物質の種類によって線量が変わってくるのである。
今回の原発事故で大きく取り沙汰されたセシウム137やヨウ素131などの放射性物質は、上図で人工放射線にあてはまる。人工放射線とは人工的に発生させられた放射線のことをいう。一方、自然環境中で天然に存在するものを自然放射線という(放射線量=自然放射線量+人工放射線量)。実は私たちは普通に生活していている上でこの自然放射線を浴びていることになるが、それが健康を害すものではない。一般的に強度の放射線を浴びると人体の機能に影響があると言われるが、自然放射線はそれに比べてもかなり弱度であるので、心配する必要はない。
さらに、放射線は医療部門で大きく活躍している上、GS部が実施する干拓地の古環境を復元するプロジェクトでも有効利用されている。放射線のデメリットだけが注目されてしまっているが、放射線には多くの利点があることを認識することも大切だ。
V 航空機内の放射線量の変化
自然放射線はあらゆるところを飛び交っている。宇宙や土壌、大気中などから放出されるが、やはり場所によって線量は違う。例えば、本校で測ったγ線の線量は0.060μSv/hほどであったのに対し、*巨椋池干拓地中心部の線量は平均0.105μSv/hだった。巨椋池干拓地の線量が比較的高いのは、土壌中に含まれる花崗岩の砂(比較的に多くの放射性カリウム等を含有する)が影響するからである。このように、自然放射線量は一律ではないことが分かる。
では、高度が高くなっていくと放射線量はどう推移していくのだろうか。私が海外研修前に予想した上では、高度が上昇するにつれ、線量も比例して高くなっていくと考えた。なぜならば、宇宙に近づくので、その分の線量が加算されると思ったからだ。宇宙飛行士は被曝量が多いと耳にするのもこれが影響しているに違いないと考えた。
環境放射線モニタ「Radi」(堀場製作所)
私はγ線の測定を行うことにした。測定には左図の環境放射線モニタ「Radi」を用いて、1分ごとの値を記録していった。高度の値は航空機の高度計の数値を概略的に用いたが、同地点一定高度で数個のデータを取ることは難しかったため、一回分のデータだけで判断せざるを得なかった地点が多かった。しかし、往復などのデータを考えるとすると傾向の判断に使えるので、他は確認用のデータとして使用することにした。
測定結果はケアンズ国際空港→関西国際空港の航空機内で測定したものを用いる。結果@はケアンズ国際空港を離陸してから高度が安定するまでの放射線量の推移、結果Aは下降を開始してから関西国際空港に着陸するまでの放射線量の推移を、横軸は高度(km)、縦軸が放射線量(μSv/h)のグラフで示す。
<結果@>
やはり高度が高くなると、線量が地上の三、四倍になる結果となった。しかし、私の予想と大きく外れた点が一つある。それはこのグラフが単調増加ではないことだ。
そこで近似曲線を引いてみると、この関数は二次関数を示していて、高度が1.5〜3.0km付近で最小の値を取ることが判明した。最小値は0.008μSvで地上の20%程度、最大値は11.5km付近で0.160μSvを計測した。
<結果A>
結果Aも@と傾向が似たグラフであり、単調増加ではなかった。しかし12.0km付近で放射線量が下がった。実際に11.5km付近では四つのデータ、12.0km付近では九つのデータを取っていて、その平均値を出している。
また、12.0km付近の減少の影響で、近似曲線の関数が三次関数になった。最小値は0.7km付近で0.007μSv、最大値は11.5km付近で0.178μSvを計測した。
<考察>
一つ目は、私の予想と外れたグラフの概形について。私は放射線量が増加するべき2.0〜4.0km付近で減少するのは雲の影響だと考えた。雲は水分の塊であるが、水は放射線を遮蔽する。実際、下降中に飛行機が雲に隠れると、放射線量が下がったのを確認した。もし雲がなければ、放射線量が単調増加したかもしれない。
二つ目は、
結果Aにおいて12.0km付近で放射線量が減少していることだ。上の表は11.5km、12.0kmそれぞれの測定結果を表している。11.5km付近では四つのデータしか取れていないが、それでも十分放射線量が高いことを示している一方、12.0km付近のデータは全体的に11.5kmのものより低いということが読み取れる。
しかし、なぜこのようなことが起こったのかは分からない。12.0km付近に雲があったとも考えにくく、また、11.5km付近だけに核実験の放射性物質が多く存在するというのも考え難い。やはり一回の計測実験で出た、判断し難いデータである故に、私はこの現象を誤差範囲と見なすことにした。
三つ目は、近似曲線の関数表示についてである。結果@、A共に、6.0〜7.0kmから増加を始めているが、その変化の割合は一定ではないことが分かる。このことから放射線量の増加においても、直線的ではなく、高度の累乗に比例する関係があることが分かった。
<結論>
・放射線量は高度の累乗に比例
・雲(水分)があると放射線は大幅に遮蔽される
・高度が一定でも放射線量にはばらつきがある
W まとめ
放射線は目に見えないし、単に「怖い」という固定観念だけが先走っていってしまっている。もちろん放射線は多量に浴びると危険なものであるのに変わりはない。そして私の今回の研究は自然放射線量の微々たる高低を比較したものに過ぎず、このような放射線量の高低を調べたところで意味がないと言われても仕方がないかもしれない。しかし、放射線を監視することは環境保護活動の一環として成り立っても良いと私は思う。昔から行われてきた核開発や、ベストミックスの一角を担っている原子力発電が自然に及ぼす影響を私たちは監視しなくてはならなかった。そしてこれからも監視しなくてはいけない。人工放射線が極端に強くなれば、計測される放射線量が高くなり、身の危険を察知する。逆に放射線量が低いままなら安心して監視を続ける。私たち、いや私たちの子孫の為にも、安全な自然環境を求めることは重要なことである。そのためには「放射線を正しく怖がる」ということに尽きるのではないだろうか。
〜語句〜
*放射能…放射線を出す能力のこと。また、放射能がある物質を放射性物質という。放射線、放射能、放射性物質はそれぞれ意味が違うため注意が必要。
*巨椋池干拓地…京都府南部に位置する干拓地。昭和初期まで巨椋池という広大な池が広がっていたが、戦争の食糧増産のために干拓され、農地化される。現在も田畑となっていて、当時の面影が残っている。
・参考文献
東京都健康安全センター
http://monitoring.tokyo-eiken.go.jp/monitoring/201103/1-2.html#anchor1
※(この研究はオーストラリア研修の際、GS部員、佐脇泰典が行ったものです。)
※(GS部OB 佐脇泰典著)
航空機内での放射線測定
@オーストラリア研修